澤水困

                            

  

   

【彖辞】困 亨 貞 大人吉无咎 有言不信

 

①困惑する。貢献する。出入を厳密にし修祓せよ。大人は神意に適い

 神罰なし。言うことがあるが、信じられない。

②出入りを止められる。貢献せよ。出入を厳密にして、貞卜によって修祓

 せよ。大人は神意に適い神罰なし。詛盟すれども誓約せず。

 

 

「困」は枠に木をはめて出入りを止める門限の形。木枠の形はむしろ裏卦山火賁の形であろう。「困」は困惑、困窮、困難の意味である。澤水困は坎爲水のような苦しみではなく、物質的で具体的な困惑となる。彖辞の「言」「信」は誓いの言葉の意味で上卦兌の象意。「有言不信」は忠告やアドバイスを信じないこと、あるいはある言説に不信感を抱くことを表す。澤水困は澤地萃の六二が変爻した形、あるいは坎爲水の六四が変爻した形と見ることもできる。

 

 

 

 

【初六】臀困于株木 入于幽谷 三歳不覿

 

尻が切り株に苦しむ。幽谷に入り三年まみえず。

 

「株木」は裏卦の下卦離の象。九三が初九と上九の囲いの中で苦しむ。この卦を逆転させると火雷噬嗑となり。九三の位置は火雷噬嗑の九四となる。九四の「胏」は骨付きの肉。「歳」は犠牲を割く鉞の形。新邑の祭。卜辞に「來歳」とあり、年に一度の大祭を表す。「三歳」は三年のみならず三人の犠牲の意も含むと以前述べた。「幽」は糸束を連ねた形。それを火で燻べて黒色にする。幽閉の義。「入于幽谷」は表では上卦兌の谷の下に暗闇の坎がある形。裏では山火賁の九三が初九と上九に挟まれた形を表す。山火賁では上卦艮を山とし、下卦離は山の下に太陽が沈んだ形。これを「幽谷」とし、九三を幽閉の姿とする。「覿」は見る、見えるの義。「賣」は「出」+「買」。「買」は「网」(アミ)+「貝」。多くの貝を集めて蔵すること。交付すること。賠償を払うこと。

 

 

澤水困における「三歳不覿」は裏卦の形で捉えることもできる。すなわち裏卦の初九と上九の檻の中に坤(三陰)の羊がない形、また裏卦の九三が上位に謁見できない形である澤水困の六三に「不見」の文言があることもこの推察を裏付けする。「三」の象意は陽爻または陰爻が三つ揃う形。または坎(陰-陽-陰)の形を形成する陽爻に対して「三」と表現する。

 

 

 

 

【九二】困于酒食 朱紱方來 利用享祀 征凶 无咎

 

①酒食に苦しむ。朱色の印綬が異方より献ぜられる。烹飪して祭祀せよ。

 征服すれば災いある。神罰なからん。

②酒食に苦しむ。朱市を命服として賜う。烹飪して祭祀せよ。征服すれば

 災いある。神罰なからん。

 

下卦坎の主体である。水天需の九五も坎の主体であるが、「需于酒食」のように「酒食」が出てくる。「酒食」とは飲食の事であるが、概ね生計のことであり生活の苦況を現わす。この表現は裏卦山火賁の九三が変爻した山雷頤の象意から読み取ることができる。山雷頤の六二は上九に養いを求め、常道に反する。また賓卦の水風井は九五の水を汲み上げる形であるから、これが逆転すると水が汲み上がらず「酒食」に困しむ形となる。「朱」は朱色を表し、邪霊を祓う作用があったかと思われる。金文に贈与に礼服として市舃(ふつせき)、赤市、朱市などを賜う例がある。「紱」には市の意味と印綬の意味の二つがある。市および紱は蔽膝(へいしつ)、礼装用のひざ掛けのことである。「方」は外方、辺境の義。「來」は来る意味だけではなく、貢獻する、来襲する義がある。九四の「來」に応じる。「朱紱」は九五の「赤紱」に応じ、「利用享祀」は九五の「利用祭祀」に応じる。

 

九二の爻辞は「方」の字義が鍵を握る。「方」は異方であるから、易においては境界の三爻を意味する。従って裏卦の九三を「方」と見なす。このように捉えると、裏卦の六五が「困」しむのは九三の存在であり、これを「赤紱」とする。従って「朱紱」もこれに準じ裏卦の九三と見る。裏卦の六二は九三が六五の君主の地位を凌ぐ勢いで進み、且つ上九に応じて養いを得る。従って六二は応じる相手を失い「酒食」(食禄)を失う。「朱紱方來」とは裏卦の九三が六五に貢物を差し出すことで、六二は食禄が得られないことを言っている。そこで「利用享祀」と身の処し方を教示する。その形は六二変爻による澤地萃に現れる。

 

澤地萃【六二】引吉 无咎 孚乃利用禴

 

」は禴祭であり「享祀」に繋がる。「利用享祀」とは九二が柔に転じ、身を引く形のことを示すのであろう。すなわち澤地萃の六二となれば吉となる。「征凶」は坎爲水の形を内包しており、上位の九五と通じ合わない事を示す。また裏卦においては上位に九三がおり、これを越えて上九の養いを得ることを「凶」と警告する。すなわち柔に転じて難を逃れ、「无咎」となる。

  

 

 

 

【六三】困于石 據于蒺藜 入于其宮 不見其妻 凶

 

石(室)で出入りを止められる。棘の中に寄りかかる。神聖なる廟奥に入る。

その妻への面会を止められる。霊を鎮め災厄を祓え。

 

「據」は杖に拠りかかる形。「豦」(キョ)は虎が奮迅する様。「蒺藜」は刺のある草。「宮」は廟奥。神聖のいるところ。裏卦山火賁において、九三は上九と初九に囲まれた「木」となる。「困」は枠に木をはめて出入りを止める門限の形であるから、山火賁の九三が上九の艮の門前で止められ、謁見できない形とみる。「蒺」に疾患の「疾」が含まれる。六三は坎爲水の中で最も厳しい状態の位置となる。

 

ここでの「石」は裏卦の九三であろう。従ってこの爻辞は裏卦の形で解釈する。賓卦水風井の九四に「甃」(石だたみ)の文字がある。「蒺藜」の「疾」は坎の象意であるから表は九二、裏卦は九三と見る。「據」は九三が上九に拠りかかる形。九三が上九に養いを求めて依拠する。「入于其宮」とは裏卦の初九と上九による囲いの中に九三が入ること。山雷頤の六三と上九の関係は「拂頤 貞凶」とあり、その裏卦澤風大過の九三においても「棟橈 凶」とある。つまり九三が上九に応じる形は「凶」となる。この経緯から上九が九三との繋がりを強めると、六二の「妻」の面倒を見なくなる。これを「不見其妻 凶」と表現したのであろう。

 

 

 

 

【九四】來徐徐 困于金車 吝有終

 

①徐々に来る。金車に困しむ。凶事であるが終わりはまとまる。

②除道しながら来る。金車に出入りを止められる。凶事であるが終結する。

 

「徐」は祓い清め安らかに行くこと。「徐」の「余」は治療用の針。「金車」との兼ね合いで状況を想像するとよい。裏卦山火賁の六四が変爻すると離爲火となり、その九四に「突如其來如 焚如 死如 棄如」とある。「徐徐」及び「金車」は九二のことであろう。九二と九五の間に九四は挟まれ困窮する。「終」の象意は裏卦の上九からもたらされ、上九と繋がりを得ていることで下位の災いから逃れることを表す。

 

 

 

 

【九五】劓刖 困于赤紱 乃徐有説 利用祭祀

 

鼻切られ足切られる。赤色の印綬を賜り困惑する。汝、徐に説得すること

 ある。祭祀を用いるがよい。

②鼻切られ足切られる。赤色の印綬を賜り困惑する。汝、禍を祓い、神意を

 受けとる。祭祀を用いるがよい。

 

「劓」は刀で鼻頭を切り落とす刑。「刖」は足切りの刑。裏卦山火賁は緊急の疫病、あるいは災禍を表すと述べた。その理由が「劓刖」に現れる。「祭祀」の「祭」は「察」に通じ、診察、警察に繋がっていく。「劓刖」は裏卦の象意からもたらされる。裏卦の六五が変爻すると上卦艮の鼻の形がなくなり、九三から六五の震の足の形がなくなる。これにより表に雷水解が生じ、「説」の脱去の意が雷水解の解放に繋がる。赤紱」は裏卦の九三と見る。九三は六五の地位を凌ぐ存在であるから、「困于赤紱」は六五が九三の存在を懸念した表現であろう。もう一つの解釈は裏卦の六四変爻からもたらされる。この形も「劓刖」の形を招く。すなわち九四が変爻すると坎爲水となり、九五と九二が対峙する。九五は九二を赤紱」と見なし、九二は九五を「朱紱」と見なす。九五の「利用祭祀」が九二の「利用享祀」に応じることから、「祭祀」の形である澤地萃(賓卦地風升)の形を勧める表現と考える。

 

 

 

 

【上六】困于葛藟于臲卼 日動悔 有悔征吉

 

かづらが絡みつき不安と動揺で困窮する。その日動いて後悔する。

後悔するが、足を進めることは神意に適う。

 

「葛」はくず。「藟」はかずら。「畾」(るい)はまつわり連なる義。「藟」は九三が上九に応じてまつわりつくこと。「臲」(ゲツ)の「臬」は卜文にも記されており、古い刑罰の法。「臲卼」(ゲツコツ)は不安、危険なこと。九三の位置の不安定さとこれに応じることの危険性を表す。「動」の声符は重(東+土)。元は童声。童僕が鋤を執って農耕する形。金文では「動」を「童」の意で用いる。この卦は坎爲水の六四が変爻して出来た形でもあると述べたが、上六の爻辞の類似性にこのことが良く現れている。「叢棘」が「蒺藜」「葛藟」に、「三歳不得」が初六の「三歳不覿」に応じる。

 

坎爲水【上六】係用徽纆 寘于叢棘 三歳不得 凶

 

「日動悔」は裏卦九三の動きであろう。九三は上位に応じて動き、同時に初九に繋がっているから日々の動きが定まらない。これを「悔」とする。「有悔征吉」は九三という「悔」はあるが、六二が上九の養いを求めて進み出でることを「吉」とする。九二の「征」に応じる。裏卦の形は山雷頤の六三が変爻した形であるから、この卦の関係性をそのまま当てはめることができる。六二が上九に応じることは「顚」(さかしま)であり「征凶」となる。一方、上九に至ると「由吉」(由らしめば吉)とあり、向こうから求めてくることは吉となる。「利渉大川」は上下卦の境界を越えることを意味する。

 

山雷頤【六二】顚頤 拂經 于丘頤 征凶

   【上九】由頤 厲 利渉大川

 

澤水困の困惑は「葛藟于臲卼」によく表れている。この卦の困惑はやっかいなものに付きまとわれる、あるいは厄介な目に合い、その日一日後悔するような出来事である。それでも「有悔征吉」とあるように、思い切って行けばそれだけの成果を得るというのがこの卦の特徴である。困惑の中身は「困」の形に現れ、それぞれの爻辞に出てくる特徴的な用語に現れる。 

 

 

 

(浅沼気学岡山鑑定所監修)