傾斜に沿った生き方

 

       本命と月命の関係性から人生の傾斜が生まれる

 

 

気学が用いる傾斜とは人生の最も大きなベクトル、方向性のことを言う。傾斜は月命九星から見た本命九星の位置によって決まる。九星にも特有の気質と運勢的傾向があるが、傾斜はその人が人生を歩む上での最も大きな方向性となる。もっとも命運は年月の運気にそって動いているから、ミクロの視点からはその都度方向性は変化している。

 

傾斜は本命九星と月命九星との波動の高低差から生じている。本命環境とは最もゆっくりとした時間制を持ち、一旦物質化すると容易に動かせない環境である。一方月命は本命より高い波動域にあり、物質化しない意識レベルの世界と捉える。本命環境には自分の力では動かしにくい物質環境が敷かれており、月命から見た本命環境は自分の一存で動かせない環境という位置づけになる。従って月命から見た本命環境への傾斜が人生における大筋の方向性となる。 

 

但し傾斜は本命環境と月命環境とのバランスで成り立つものであり、一方的な傾きはむしろ人生の閉塞感を生む。気の世界には陰と陽のバランスがあり、表と裏を逆転させることで全体のバランスを取ろうとする。これと同じ原理が傾斜にも働いている。人生の前半から後半に差し掛かると、傾斜は徐々に逆転していく。人生は前半と後半の方向性を逆転させることで、本命と月命という二つの異なる環境のバランスを取っている。尚、人生の前半は三十六歳までとし、ここから徐々に傾斜が逆転していく。

 

 

 

             八つの傾斜の特徴

 

 

傾斜は八卦がもたらす八宮の象意とその方位性からもたらされる。我々の一生は本命と月命の関係性により、生活パターンや生き方の大きな方向性を決めている。八つの傾斜とその特徴は以下の通りである。

 

坎宮傾斜:創作。企画立案。設計。監督。仕切る。まとめる。全体を見る。

     長期的展望で動く。プランを立てる。裏から人を動かす。

     目立たない所。座して動かない。独り。独自スタイルを築く。 

    

艮宮傾斜:人と人を繋ぐ。定期的な方向転換と交代。複数の仕事をこなす。

     伝統を引き継ぐ。高度な手技と技術。仕事を転々。

     拠点を作らない。

 

震宮傾斜:外出。営業。多忙。日替わり。日帰り。ライブ。即時性。先見性。

     人の急用、危急に答える。未知のものに対して挑戦する。

     実行力。大衆へ訴える。我が道を真っ直ぐ行く。

 

巽宮傾斜:従って動く。組織に従属。事業拡大。マネージメント。

     実家を出て遠方で活躍。時代の流れに合わせる。権力や体制とは

     反対方向へ進む。

 

離宮傾斜:教える。指導する。調査、検査、監査など真偽を確かめる。鑑定

     など価値を評価。真理探究。美に関する仕事。人から注目される。

     目立つところや高みに昇ろうとする。理念理想夢に基づいて動く。

 

坤宮傾斜:我慢強く続ける。完璧に仕上げる。技術の完成。一つの世界に

     徹する。伝道者。地味だが堅実で正確。利害に絡まない生き方。

     世間の評価を顧みない。時間的拘束を受けない。   

 

兌宮傾斜:社交的になる。サービス、接客、人と話す仕事。利便性追求。

     人に喜びと安息をもたらす。理念理想ではなく現実に重きを置く。

     分かりやすさで人気を集める。形式に拘らない。自己アピール力。 

        

乾宮傾斜:主人。経営者。主たる生計者。守りに徹する。時流に乗らない。

     目先の利益を追わない。人に尽くす仕事。社会奉仕、慈善事業。

     保守。家督を引き継ぐ。郷土、国家を守る。拠点を離れない。     

          

傾斜の対比は前半人生と後半人生の生き方の方向性を変える指針となる。傾斜は傾きすぎるとアンバランスとなり閉塞感が生まれる。従って傾斜は一方的かつ過度にならぬよう、各々が自分の人生に対して常に外から眺めバランスを取る必要がある。上記の傾斜で対となる組み合わせを以下に記しておく。

 

坎宮傾斜 対 離宮傾斜

艮宮傾斜 対 坤宮傾斜

震宮傾斜 対 兌宮傾斜

巽宮傾斜 対 乾宮傾斜

 

例えば傾斜の対比によって、以下のような陰陽の逆転が人生において現れる。

 

 

•人生の前半で外向きの仕事を行っていた人は、後半から内向きの仕事をする

 ようになる。

•人生の前半で不特定多数の人に接する仕事をしていた人は、後半から

 一人一人に向き合う仕事をするようになる。

•人生の前半で自分の技術を磨いた人は、後半から他人のためにその技術を

 使い、教える立場になる。

•人生の前半で転々として仕事が定まらなかった人は、後半から一つの仕事に

 集中するようになる。

•人生の前半で実家を離れ活躍していた人は、後半から地元に戻り家業を引き

 継ぐ。また地域の仕事に携わる。

•人生の前半で組織に従属し上位に仕える立場であった人は、後半から部下を

 抱え経営者側に立つようになる。

•人生の前半で生活のために仕事をしていた人は、後半から生きがいのために

 仕事をするようになる。

•人生の前半で利害に絡む仕事をしてきた人は、後半から利害に絡まない仕事

 をするようになる。

•人生の前半で自分のやりたいことをしてきた人は、後半から地域と関わり、

 人の役に立つ仕事をするようになる。

•人生の前半で世間の価値観に動かされていた人は、後半から自分の価値観で

 生きるようになる。

•人生の前半で地位、名誉を得た人は、後半あるいは晩年に肩書もなく質素で

 慎ましやかな人生に戻るようになる。

 

 

陰陽の逆転は本人の意識とは別に自然な運気の流れの中で起きてくる。こうした傾斜の逆転は陰陽が一方的に傾くことによる弊害を抑制している。傾き過ぎは逆の環境に転換したとき、その環境に馴染みにくくさせる。傾斜の逆転は本命環境にも月命環境にも傾かせたままにしないという気の世界の絶対的ルールからもたらされる。

 

 

 

          傾斜は人生基盤を安定化させる

 

 

それぞれの傾斜にはその人の役割があり、その役割は本命環境を基盤にして形勢される。従ってこの傾斜と異なる方向性の進路に進もうとすると、人生全般が上手く進まなくなる。この巧みな変化の流れに乗る人は、例えそれが不本意であってもその人なりの役割に馴染んでいき、この流れに逆らう人は日増しに逆風が強くなり、その弊害を不本意な形で背負わざるを得なくなる。

 

長い目で見れば人は傾斜と異なる人生を歩むことはない。なぜなら我々は生まれると同時に本命、月命という運気の型を手にし、これによって大きな方向性とスケジュールを決めているからである。その中で傾斜が決定し基本路線が決まる。この基本路線は本来その人の人生基盤を安定化させるためのものであり、その人の生きがいを現実化させるためのものでもある。

 

本命と月命は常にバランスで成り立つものである。生きがいが強く現れる月命環境も本命環境抜きにしては成り立たない。本命環境は常に月命環境を安定化させるために物質的なバックアップを行う。本命環境を土地と家とすれば、月命環境はそこに住む人の営みである。本命を表す住環境が整い、月命を表す生活の営みが落ち着くことで人生の安定感は生まれる。

 

月命環境の思いや理想は本命環境より現実化しやすいが、その反面いざという時は自己責任となり、外部からの助けも得られにくい。一方本命環境は何かと束縛されることが多いが、いざという時は家族や地域社会によって助けが得られる。本命環境に傾き過ぎれば、生きがいのない味気ない人生となり、月命環境に傾き過ぎれば、地元、地域社会との接点を失い、晩年には阻害された人生を歩まざるを得なくなる。すべからく気の世界は陰陽のバランスを取ることの大切さを教えている。

 

傾斜はその人が避けて通れない人生のスタイルでもあり、人生の最も大きな道筋を示すものでもある。傾斜は人生の方向性を確認する上で非常に役に立つ。我々は大きな岐路に立った時ほど、大きな尺度の方位磁針を持たなければならない。そこに傾斜の活用があり、傾斜に沿った生き方は人生の安定軌道を保証する。

 

 

 

               傾斜の事例

 

 

坎宮傾斜:S・スピルバーグ(映画監督)。大谷翔平(野球選手)。

        

     監督は坎宮傾斜が多い。黒澤明監督も坎宮傾斜。人生の前半を目立

     つポジションの離宮傾斜で歩むと、人生の後半からは本来の坎宮傾

     斜に逆転し裏から人を動かす監督あるいは指導者の道に傾いてい

     。中曽根康弘元総理は坎宮傾斜。同じ年に生まれた中角栄元総理

     は離宮傾斜。総理大臣は座して動かず、裏から人を動かす。坎宮傾

     斜離宮傾斜は表と裏の関係。

 

艮宮傾斜:ラフマニノフ(作曲家)。イチロー(野球選手)。

 

     ラフマニノフはピアニストとしても有名。艮宮傾斜の人は手の技術

     で生計を立てる人が多い。イチロー選手の卓越した技術力は艮宮傾

     斜の特徴を表し、野球に対し徹底して取り組む姿勢は逆の坤宮傾斜

     の特徴を表す。歌手のカレン・カーペンターも艮宮傾斜。カバー曲

     のように名曲を引き継ぐ形は伝統継承の艮宮傾斜となる。また歌手

     は拠点を設けず様々な場所で歌う。歌手、野球選手のように交代で

     入る仕事も艮宮傾斜の特徴を表す。

 

震宮傾斜:伊能忠敬(測量家)。三島由紀夫(作家)。千代の富士(力士)。

 

     伊能忠敬は日本全国を隈なく歩き、日本地図を完成させた。行動力

     実行力があり、未知の領に足を踏み入れるのが震宮傾斜。大衆に

     訴えかける力があり、戦闘的人生を送るのも震宮傾斜の特徴。

 

巽宮傾斜:坂本龍馬(土佐藩士)。野口英世(細菌学者)。夏目漱石(作家)

 

     実家を離れて活躍するのが巽宮傾斜。坂本龍馬は若い時から海外へ

     視点が向いていた。野口英世も実家を出て海外で活躍した。夏目漱

     石は世の中の動きや時代の流れを読む鋭い観察眼を持っていた。 

     ナソニックの創業者松下幸之助も巽宮傾斜。商才の発揮は巽宮傾

     。政治家育成に意を注いだところ宮傾斜。   

 

離宮傾斜:エジソン(発明家)。川端康成(作家)。

 

     発明は離宮の象意。現実にないもの、観念、美を追いかけるのが離

     宮傾斜。川端康成の作品の特徴は美意識でり、文体もとりわけ美

     しい。芥川龍之介も離宮傾斜。ベートーヴェンも離宮傾斜。作品も

     さることながら生き方が離宮傾斜そのもの。離宮傾斜想を追い

     かけるあまり足元が見えなくなる傾向がある。

 

坤宮傾斜:アインシュタイン(物理学者)。白川静(漢字学者)

 

     物理学者は坤宮傾斜が多い。一つのことに徹底して取り組む気質が

     坤の気。坤は目に見えない微細な働きの象意があり、重力は坤から

     派生する。白川静博士は甲骨文、金文の精密な分析を行い、新

     漢字学を体系化させた。日回峰行を達成した酒井雄哉大阿闍

     坤宮傾斜。坤宮傾斜は俗世ら離れた世界で生きる傾向が出る。

 

兌宮傾斜:長嶋茂雄(野球選手)。勝海舟(幕臣)。ショパン(作曲家)。

 

     長嶋選手は日本の野球人気を作った功績がある。観客を喜ばすこと

     を考えるのが兌宮傾斜勝海舟は現実をよく見据え、世界の変化に

     応じた政治を行った。西郷隆盛も兌宮傾斜。ショパンはクラシック

     音楽で最も人気がある作曲家の一人。チャイコフスキーも兌宮傾斜

     。バレエ音楽のように音楽を総合芸術に高めた。エンターイメン

     トは兌宮の象意である

 

乾宮傾斜:マザー・テレサ(修道女)。高倉健(俳優)。

 

     神仏を尊び弱者救済と社会奉仕に傾倒するのは乾宮傾斜の特徴。

     倉健は人生の後半から不器用ではあるが、実直な男を演じることが

     多くった。時流に乗ない生き方は乾宮傾斜。またインドの政治

     指導者で非暴力不服従を貫いたマハトマ・ガンディーも乾宮傾斜。

 

 

 

 

 

浅沼気学岡山鑑定所監修