伝統が引き継がれる気学的条件
〔気の循環を作る三つのグループ〕
伝統を引き継ぐというテーマを掲げると、まず三つの八卦を取り上げなければならない。一つ目は伝統を守る乾。二つ目は伝統を記憶し保存する坎。三つめは繋ぎの役目を果たす艮である。これらの八卦は後天図という気の配置図の中で北西、北、北東と順番に並び、この三つの宮が伝統継承の基盤を作る。乾は九星の六白金星、坎は一白水星、艮は八白土星に当たる。これら三つの九星は三つのグループを作り、性格の異なる九星を後天図の配置によって繋いでいる。
三つのグループとは258、147、369である。258とは二黒土星、五黄土星、八白土星である。147とは一白水星、四緑木星、七赤金星。369とは三碧木星、六白金星、九紫火星。これら三つのグループは後天図の変化ラインと呼ばれる三つの宮に配置されるとそれぞれ固有の役割を果たす。その三つの宮とは艮宮、中宮、坤宮である。この斜めのラインに三つのグループが並ぶとグループの特性に合わせた環境変化の流れを作る。
まず258が変化ラインに並ぶと旧態を革新させ新たな運気を創り出す。次に147は258が作った流れを定着させる。最後に369は行き詰まった流れを断ち切り、世代交代によって次のステップへ移行させる。気の循環は創出・継承・交代・終焉のパターンを作り変化による永続的な循環を図る。
この変化ラインに乗る九星グループの中で連携の役目を果たす147の働きについてさらに掘り下げてみたい。この三つの九星の共通点は柔軟性があるということである。すなわち変化に際して三つの九星が協力し状況に合わせて対応するという特徴がある。この三つの九星が変化ラインに並ぶと協調を図りながら結束力を高め、家族の連携やチームワークさらには組織の強みを引き出していく。以下三つの九星の特徴と役割について述べる。
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〔一白水星〕
一白水星は人と人を繋ぐ要となる。一白水星にはまとめ役の気質があり、長老、師範、師匠、監督のように、まとめ役とリーダーの気質を兼ね備える。一白水星は八卦の坎から発し、後方から他の八卦を束ねる。坎宮は記憶の宮でもありその記憶を全体に伝達する。また坎は自己意識の要でありここに情が宿る。後天図における坎宮の位置は最後尾、最低点、元締め、発生の位置にあり、この宮に情が宿る。このことは最終的に世界が理屈でなく情をもってまとまることを示している。
〔四緑木星〕
四緑木星は八卦の巽から発する。巽は風の象意を持ち、縁結びの働きがある。四緑木星に吉神がつくと良縁となり、その縁は長く続く。伝統はその技術の継承が最も難しい。技術の継承はまず手本となる人がいて、型を示し、これを真似て順応することから始まる。この順ずる、真似る、習う、慣れる力が四緑木星に備わる。そして一人ではなくペアになり、同じ所作を真似ることにより元の形をより正確に継承する。巽の文字の原型は神殿で二人の巫女が踊る姿である。伝統継承の姿が巽の文字に現れている。
〔七赤金星〕
七赤金星は八卦の兌から発する。兌は澤を現わし、水が湧き出るところとなる。ここに生き物が集まり衣食住の充足がもたらされる。兌は楽しさと喜びを意味する。これが気の世界の真の動機となり、発動の震、三碧木星の動に繋がる。兌の気は不特定多数の人が集まりコミュニケーションの場を提供する。それが七赤金星に引き継がれ、会話を弾ませ人と人を繋いでいく。七赤金星は七掛けの気であり完璧を求めない。少し欠けている状態を程よさとする。七赤の気はその場への入りやすさを作る。こうして誰もが参加できる環境を作り、世代継承を阻む様々な障壁を取り払っていく。
〔147の並びが結束力を作る〕
147の繋がりは家族的な繋がりやチームワークを形成し利害の絡まない関係を保つ。この三つの気が連携することにより、世代間の壁を無くし七赤が持つ喜びによって伝統が引き継がれていく。一白、四緑、七赤が艮宮、中宮、坤宮に並ぶと家族的連携が強まり、三つの九星が持つ強みが継承を意味する艮宮において発揮される。技術の継承を意味する宮は艮宮であり、これを八白土星が受け持つ。艮宮は継承の宮であり、ここにおいて親から子への技術継承が行われる。147のグループはこのラインに並ぶことによって結束力を強め、忠実性と柔軟性をもって継承の断絶を防いでいる。
〔八白土星が持つ継承の役割〕
技術継承を担う八白土星は定位の艮宮のみならず坎宮においても重要な役目を果たす。三碧木星が中宮に入ると八白土星は坎宮に同会する。この時離宮には七赤金星が同会し、七赤、三碧、八白が縦軸に並ぶ。三碧は長男を意味し八白は父親を表す。すなわち三碧の命運は下から支える八白の父性によって支えられる。八白土星は坎宮の伝達と秘匿の気を引継ぎ、八白が持つ高度な技術をダイレクトに引き継ぐことが可能となる。その継承は技術よりもむしろ精神性を引き継ぐと言ったほうが正確である。この時離宮の七赤は対冲から八白土星の継承を補強する。この七赤金星には伝達力、機転、明快さが備わり、八白土星の技術継承をサポートする。
〔六白金星と八白土星との密接な結びつき〕
六白金星と八白土星は相性の面においても非常に良好であるが、伝統継承においても密に連携する。六白金星の定位である乾宮には先天の艮が宿る。艮は八白土星に当たる気である。このことは乾宮の裏に伝統及び家督継承の役目があることを物語る。また乾宮には財産が集まる。その財産は艮の役割に従い子孫に引き継がれていく。さらに艮宮には先天の震が宿る。震は三碧木星に当たり長男を表す。艮は父。震は長男。つまり家督を引き継ぐものと引き継がれるものが表と裏で同会する。こうして乾と艮、艮と震の繋がりにより世代継承は行われている。その継承も進化の中で継承するものと断絶するものに分かれ、暦の変化リズムに従って世代交代が行われていく。
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〔三つのグループの役割〕
九星の三つのグループはそれぞれ固有の気質と役割を持つ。その特徴が変化ラインの中で現れ、世の中の仕組みや人の生き方、生活スタイルを築く一つの重要な要素となっている。
どの九星もある程度社会に慣れるまでは既存のシステムに乗り、何かに従属することによって学んでいくという傾向が現れる。この過程で本当にやりたいこととは異なる仕事を選ぶ人も出てくる。一方で我々が生まれた時に決まる本命及び月命の九星にはその人の進むべき道筋が正確に書き込まれている。そこには自分がやりたいこと、そのやりたいことを行うために必要な環境、時期、出会いが記されている。従ってこの命運に沿った人生を歩むことによってはじめて固有の気質が発揮され、その能力が生活や仕事に活かされるようになる。この運気を暦とともに読み取るのが気学である。
三つのグループを人生スタイルと考えると、まず258は社会の既存スタイルを刷新し変革する役目を持つ。このグループは本来自力で生きていく独立型である。このため自力で生きていくための強靭なエネルギーと生活環境への対応力が備わる。一方で258を本命月命に持つ人は家族関係で労苦を背負うことが多く、また仲間との連携が不得手である。それは258の艮宮坤宮に暗剣殺や破という気の障害が現れるからである。このため幼少期から思春期に欠けて家庭環境で苦労し、また自分が家庭を持つと子育ての労苦を背負うことが多い。その労苦の原因は家族的連携に弱点があるからである。
147は家族的連携やチームワークに強みがある。従ってこの九星を本命月命に持つ人は家族で同じ仕事を営み、また子育てや家事においても協力体制を築くことが多い。この特徴から147を持つ家族は他の九星よりも世代継承が行われやすい。147は一度築き上げた社会のスタイルを整え、改善し、その良きスタイルを継承し、今ある社会システムや既存の職業、組織に順応して生きていく。従って147は自分独自のスタイルをゼロから築いていくという生き方は本来合わない。147の独立は258や369とは異なり、既存のシステムに従い、家族や仲間との連携を維持しながら自分なりの変化変容を加えていくというスタイルが望ましい。
369は258と同様に独立型であり、暦の中では物事の締めくくりを司る九星である。これは独立型であるため258と同様、家族や仲間と連携して動くことを苦手とし、引継ぎを前提とした仕事の進め方をしない。故に369を本命月命に持つ人が組織に入ると、その人しかできない仕事を作り、他の人と仕事を共有する部分を意識的に作らないために継承者不在で終わることが多い。一方で369は147と258に対し個人レベルで繋がるという特徴がある。連携やチームワークには疎いが、適任者となると一対一で知識や精神を引き継ぎ引き継がれる関係となる。369は家族的連携に疎いため世代交代に支障をきたすという見方もあるが、むしろ世代継承を意図的に行わず自分の代で完結させ、次のステップへ移行させていると捉えることもできる。369による継承の断絶は個々人においてマイナスの出来事もあるが、旧態を刷新させ258の創出へと繋げるというプラスの働きもある。
三つのグループの人生スタイルを一つの役割として見ると、継承を得意とする147だけが有利と見ることは出来ない。気の世界は常に変化しており、変化の中で断絶や終焉が起きる。断絶や終焉は当事者にとっては残念で不本意な出来事と見えるが、大きな気の流れから見ると、むしろ世代交代や新陳代謝を促進しているという意味合いがある。気の世界は同じ状態を作らず、また同じ状態を必要以上に続けさせない。三つのグループは創出、継承、交代、断絶のリズムを作り、変化ラインに並ぶことにより世代継承と世代交代を確実に行っている。
浅沼気学岡山鑑定所監修