地風升

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【彖辞】升　元亨　用見大人　勿恤　南征吉

登亨する。命を全うして廟に報告し貢献する。もって大人に謁見せよ。

主君に奏上し血盟に臨む。南方を征服し契刻した誓約を実現せよ。

「升」は勺形の器で穀量を量る形。供薦する義。卜辞では祭名にも用いられたという。「南」は釣鐘形式の楽器の形。古くは苗族が用いた楽器であったため苗族を南人と呼んだようである。南は水山蹇にて方位を記述する卦として紹介した。易にはしばしば方位を記述する爻辞が出てくるが、必ずしも卦に用いられる八卦の象意が方位となって出ているわけではないと分析した。この卦も南を象意とする離の形が出てこない。一方、地火明夷九三に「南狩」という文言が出てくる。地火明夷と地風升には共通点がある。それは上卦に坤があることである。気の法則では上を南と見るから、坤の未開の地に進む意味として「南狩」「南征」を用いた可能性もある。 「南征」は異族を征服する義でもあるが、気学の南（離）は学問を意味する。従って学業を修め、神仏に帰依し、升階する姿とみる。

【初六】允升　大吉

①まことに貢献する。大いに成果を得る。

②恭順して、登亨する。大人は契刻した誓約の実現を求める。

「允」は手を後ろにしている罪人の形。虜囚。恭順の意を表す。甲骨文に「允（まこと）に龔（たたり）侑りき」という卜占がある。「允」は訊問して真の供述を得ること。甲骨文に「允に雨ふらざりき」とあり、貞卜の結果に対する追認の辞としての意味もある。火地晉の六三に「衆允　悔亡」とあり「允」が用いられる。この卦でも述べたが、資格を得る時の允可（許可）は貞卜の結果に対する追認の義からきている。初六の「允升　大吉」とは允可を得て昇進するから大吉となる。初六は下卦巽の従う気運に乗り、上位に恭順の意を表す。「允」は手を後ろにしている罪人の形であり、 地風升の形を模しているようにも見える。もう一つの「允」の解釈は裏卦の形からもたらされる。裏卦の形は初九の「大人」が前方に並ぶ上卦三陽（三人）に允可を渡している形にも見える。これは賓卦にしても同じ光景が浮かび上がる。

【九二】孚乃利用禴　无咎

①孚の心があれば、汝、禴祭（西の質素な祭祀）を行うがよい。咎めなし。

②孚の心があれば、汝、西郊を宗祖とする禴祭を行え。神罰なからん。

「禴」は春または夏まつり。「龠」（ヤク）は三穴の竹笛の形。神事や楽舞に用いる。三穴の竹笛は卦象。「孚乃利用禴」は澤地萃の六二でも用いられる。いずれの卦も廟を祀る意味が含まれる。禴祭を西の質素な祭祀とし、易はこの祀り方を重視する。九二は六五と陰陽応じ、巽の従う気運に乗って上昇する。

【九三】升虚邑

無人の邑（村落）に昇る。

「虚」は「虍」＋「丘」。「丘」は墓丘。都邑は丘上に営まれ、廃墟は墳丘となった。「虚」の象意は上卦の坤からもたらされる。「邑」は都。村。左伝に「凡そ邑に宗廟先君の主（位牌）有るを都と曰ひ、無きを邑と曰ふ」とある。「邑」は城内の人を表す文字で、町、村の義。「衆」及び「或」「國」に通じる文字である。上卦の坤を「虚邑」とする。九二、九三は揃って巽の気運に乗り上昇する。

【六四】王用亨于岐山　吉无咎

王は岐山に烹飪する。神意に適い咎めはない。

この爻辞の「王」は易の彖辞を書いたとされる文王のこと示したものと考えられる。澤雷隨の「西山」は周王朝の聖地とされる岐山のことを示す。地風升の上六が変爻すると山風蠱となり、その裏卦が澤雷隨となる。澤雷隨上六の爻辞は、裏卦上九の艮を「岐山」として祀ることを表している。地風升はこの上九がないから、九三にて「虚邑」と表した。九二の「禴」はこの「岐山」での質素な祭祀を意味する。

澤雷隨【上六】拘係之　乃從維之　王用亨于西山

ではなぜ「王用亨于岐山」という文言は九四で用いられたのだろう。その答えは上六変爻による山風蠱の形からもたらされる。澤雷隨における「西山」（岐山）は裏卦山風蠱の上九のことを指し示している。この形を 地風升に置き換えると、上六が変爻することで「岐山」となる。六四の爻辞はこのことを想定して作られたものと考える。また六四は裏卦の九四であり、裏卦の九四は賓卦の九三となる。山風蠱の上九は「岐山」でもあり、九三に允可を渡す立場にもある。

【六五】貞吉　升階

①身を慎んでいれば吉である。階段を上る（昇級する）。

②貞卜によって出入を厳密にし、修祓せよ。契刻した誓約の実現を求める。

　宗廟に登亨し、祭壇に上れ。

「階」は神霊に祈ることでその意が適い、多くの霊が祝祷の器に降下する形。「階」の「皆」はともに誓う義。「階」は音律を整えることを表す「龢」（和）という文字に関連するようである。故に音階、龢音となる。「龢」は九二の「龠」（笛）に応じる。この卦は俗世の昇進よりもむしろ神仏に仕える人の「升階」と読み取れる。

【上六】冥升　利于不息之貞

①冥暗にして貢献する。止むことなく身を慎んでいることがよろしい。

②幽遠なる聖地へ登亨する。止むことなく、出入を厳密にして貞卜し、

　修祓せよ。

➂冥（死者）の郊祀に貢献する。止むことなく、出入を厳密にして貞卜し、

　修祓せよ。

「冥」は死者の面を覆う巾。上卦の坤は冥界を表し魂が帰るところとなる。「不息之貞」とは上卦坤の形を維持し、上六が変爻すべきでないことを説く。これにより下卦巽の九二と九三が上昇する。

（浅沼気学岡山鑑定所監修）