火山旅

                             

       

 

【彖辞】 旅 小亨 旅貞吉

 

①軍行する。少しとおる。軍旅に際し、出入を厳密にして貞卜し修祓せよ。

 神意に適う。

軍行する。小臣は貢物を献ずる。軍旅に際し、出入を厳密にして貞卜し

 修祓せよ。神意に適う。

 

「旅」は現代では旅(たび)の意味であるが、元来は氏族旗を奉じて進む氏族軍、軍団、遠行、軍行を意味する。祖廟の外に出る時に氏族霊の象徴として氏族旗を奉じて行動したという。卦の形は艮の山の上に離の火が重なる。山の上を火が延焼して移動する形でもある。

 

 

 

 

【初六】旅瑣瑣 斯其所取災

 

氏族旗を奉じ隊列を組んで軍行する。これ、その災いを取るところ。

 

「瑣」は小さな貝を綴ったもの。こせこせした状態。煩わしいの意味もある。ここでは貝を綴った形のように隊列を組むと解釈した。「斯」は元来机の上でものを裂く義。卦の形を見ると艮の机の上に離の切る形がある。この切る象意がさらに「取」に繋がる。「所」は「戸」+「斤」。廟所。(戸)の前に斤(鉞)を置く。「取」は戦場における戦果の耳切りを表す。この耳を切り取った形が卦の形に現れる。上卦の離を右耳とし下卦の艮を左耳とする。耳の形を離とすると、下卦は離の初九が欠けているから左耳を切り取った形となる。「災」は「巛」+「火」。「巛」は水が塞がれて横流れする形。火の災い。天譴の意。九三の「焚」が初六に及ぶ形を「災」とする。火山旅の初六は賓卦雷火豐の上六である。

 

雷火豐【上六】豐其屋 蔀其家 闚其戸 闃其无人 三歳不覿 凶

 

この爻辞は雷火上六が変爻し、上下卦分離の離爲火を招き、裏では坎爲水の孤立を招く形である。その状況を「三歳不覿」と表現する。火山旅の初六はこれを火の「災」とする。

 

 

 

 

【六二】旅卽次 懷其資 得童僕貞

 

①旅人が宿で落ち着く。その人の資質を思いめぐらし、その身を清めた

 童僕を得る。

②軍が邑里の外に遠行して宿営し任に就く。その資質を思いめぐらす。

 童僕を得て出入を厳密にする。

 

「卽」は食膳の前に人が坐する形、席につく。任につく。「懷」の「褱」(カイ)は死者の衣襟の間に涙の象形をそそぐ形。受霊。神事を表す。その死を懐念する。おもう。いだく。なつく義。「資」は財貨。生来の資質。「童」は目の上に入墨する意で受刑者。結髪を許されない者。僕(しもべ)の義。「僕」の「菐」は丵(サク)を両手で持つ形。礼冠を頂きにし儀礼に従う者の形。その奉ずる器は辛の形に似ている。神に仕えるもの。六二の「次」は宿営地の義もあり、また跡継ぎの意味もある。この象意は裏卦水澤節から現れる。九二は九五の後継者としての候補になる。「卽」は九五の後継者の位置に「卽」く意味もある。「懷其資」は裏卦水澤節の九五が後継者としての九二の資質を思いはせることを表す。「得童僕貞」は同じく九五が九二の童僕の身辺を見極め、これが「貞」であることを認め僕として得ることをいう。水澤節の九二が変爻し、これを逆転させると山水蒙となる。山水蒙は上九の指導者が九二の童僕を教育指導する卦である。従って水澤節は九二と九五の立場が逆転しているから、見方によっては九二が主君の位置である九五を見定めている形にもなる。九二は九五の地位を「次」ぐ動きもあり、これを九四が「我心不快」と警戒する。また裏卦の六四が九二と結託することを九五(我)が「不快」と警戒する。

 

 

 

 

【九三】旅焚其次 喪其童僕 貞厲

 

①軍が邑里の外へ遠出し、その宿営地を焼かれる。その童僕を喪う。

 出入を厳密にして貞卜し、邪気を祓え。

②軍が邑里の外へ遠出し、次々に焚殺される。その童僕の復帰を願い

 哀哭する。出入を厳密にして貞卜し、邪気を祓え。

 

「焚」は「林」+「火」。焼き狩り。焚殺。「喪」は哀哭すること。九三は辺境の宿営地となる。宿営地を焼かれる形は上卦の離を火とし、その火が九三に延焼する形を示すものであろう。もう一つの「災」は初六の変爻によって生じる離爲火の火である。「喪其童僕」の「童僕」は裏卦水澤節の六三。六三は九五に対する「童僕」の立場であると同時に、表では上九の「童僕」でもある。初六が変爻すると離爲火の上下卦が分離し、裏卦においては坎爲水が生じて上下の孤立を招く。この形への移行により、上九と九三との応の繋がりが途切れる。これを上九が「牛」の九三を「喪」う災いとし、「喪其童僕」の形と見る。また裏卦の六三は境界にいて九五の地位を常に脅かす存在であるが、離爲火(坎爲水)への移行により、九五の地位を狙う動きを封じられる。

 

 

 

 

【九四】旅于處 得其資斧 我心不快

 

軍が邑里の外へ遠出し、ここで軍議を行う。財産指揮権を獲得する。

我心は快からず。

 

「處」は「虎」+「几」。軍事に際して軍戯が行われた。廟所。「斧」は鉞。族の長老。指揮権、刑罰権の象徴。「資」が六二に応じて、九四が六二の動きを警戒する。「斧」が初六の「所」に応じる。九四は上卦に入り、上九と結びついて「資斧」の資金と指揮権を得る。但し裏卦の九五が九二を後継者として認める動きがあり、これを裏卦六四の「我心不快」とする。また初六が変爻することによって上下卦が分断する形を「不快」とする。一方「我」を裏卦の九五と見ると、六四が九二を「資斧」として二つの爻が結託することも九五の「不快」となる。「我心不快」が艮爲山六二の「其心不快」に応じる。

 

                  

 

 

【六五】射雉 一矢亡 終以譽命

 

射禽の礼を行い和好する。一本の矢がなくなる。名誉ある命を受けて終わる。

 

「射」は重要な儀礼で行う修祓の祝儀であり、会射によって互いに誓う定めがあったという。「会射」の象意は上九変爻による雷山小過の形から出てくるものであろう。弓が飛ぶ形は震、弓を射る手は艮となる。雷山小過は九三と九四が背中合わせで互いに弓を射る形にも見える。会射による誓約、和好の意味は、その裏卦の風澤中孚から出てくる。風澤中孚は和好を意味する兌が上下向き合う形である。「一矢亡」は上九変爻により陽爻を一つ亡くす形を示したものであろう。「一矢」を亡くす形を作ることで、会射による誓約、和好の形が生まれる。「亡」は死者の象。九四変爻による艮爲山の六五に「艮其輔 言有序 悔亡」とあり「亡」が応じる。「序」は儀礼を講習するところ。「榭」(シャ)は射儀を習うところの意味があり「序」の義に通じる。すなわち会射の象意をもって火山旅と艮爲山の形が繋がる。六五は上九に起こり得る事態を中立的立場から間接的に伝える。また火山旅は地澤臨の六五変爻により生じる水澤節の裏卦でもある。地澤臨は臨検、臨戦の状況を表す。「譽命」が「宜」の義に応じる。

 

地澤臨【六五】知臨 大君之宜 吉

 

 

 

 

【上九】鳥焚其巣 旅人先笑 後號咷 喪牛于易 凶

 

①鳥の巣が焼かれる。旅人は先には笑い、後には泣き叫ぶ。賜り物の牛を

 失う。災厄を祓え。

鳥の巣が焼かれる。旅人は先んずれば笑い、後退すれば泣き叫ぶ。

 賜り物の牛を失う。災厄を祓え。

 

「鳥焚其巣」の「鳥」の象意は雷山小過の形と見る。雷山小過は鳥が羽を広げた形に見える。雷山小過の上六が変爻した形が火山旅であり、下卦艮の山が上卦離の火で燃える形となる。この形の変化を鳥の巣が焼かれると表現したのだろう。六五の「雉」が上九の「鳥」に引き継がれ、九三の「焚」が上九の「焚」に応じ、上位の災いが九三に及ぶことを示す。

 

次に「旅人先笑 後號咷」の意味を形の変化から紐解いてみる。「先」は除道のために人を派遣すること。「後」は進退に関する呪儀。敵の後退を祈る呪儀。天火同人九五に似たような表現がある。

 

天火同人【九五】同人 先號咷而後笑 大師克相遇

 

天火同人は九五が変爻して離爲火となる。この形を「先號咷而後笑」の形と考える。  

 

九四が変爻すると艮爲山となり、その賓卦が進軍の震爲雷であるから「先」の象意となる。さらに艮爲山の裏卦は兌爲澤となるから兌の象意である「笑」の形が出てくる。「笑」は「若」の字義に非常に近く、双方とも巫女が手をあげ首を傾けて舞う形である。この形は艮爲山及び兌爲澤の象意が強い。「後號咷」の形は二つの見方がある。一つは初六変爻による離爲火。もう一つは上九変爻による雷山小過である。「咷」の「兆」は亀卜の灼けた割れ目の形で左右対称に焼く。つまり上下卦の対称性が現れる形を「咷」と捉えることができる。火山旅の爻変で対称性が現れる卦は離爲火または雷山小過となる。従って「後號咷」の形は初六が変爻して生じる離爲火、または上九が変爻して生じる雷山小過の形となる。「先」は九四の変爻、「後」は初六または上九の変爻となる。但し総合的には上九変爻による雷山小過の形がより文字の象意に即している。それは六五の「雉」及び上九の「鳥」の二つが上九変爻を強く示唆していること、また「號」が兌の象意であり雷山小過の裏卦が風澤中孚となることが理由として掲げられる。

 

「喪牛于易」の「牛」はどの爻を指しているのだろうか。「喪」の文字が九三にあり、互いに応じているから「牛」は九三と考えられる。「牛」は角があり柵の中に入る。九三の艮を角とし牛と捉えると、初六が陰爻で欠けた形に見えるから、九三の牛は逃げられる。この形を牛を喪う形と見ることができる。また上九変爻により生じる雷山小過は上卦と下卦が逆方向へ進む形であるから、この形も九三の牛を喪う形になる。

 

火山旅は「次」「資」「焚」の文字が卦象を読み取る鍵になる。「次」「資」は後継者に関する事であり、「斧」はその実権を表す文字である。「焚」は火が延焼する様子を表し、災いが次第に近隣、隣国に及ぶ様子が伺える。その裏で斧」を求めて権力争いが進行していることが読み取れる。

 

 

 

(浅沼気学岡山鑑定所監修)