風火家人

                             

  

 

【彖辞】家人 利女貞

 

家廟を守る人。女性のように身を慎むのがよろしい。

②家邦の人。汝、出入を厳密にして貞卜するによろし。

 

「家」は「宀」+「豕」。犠牲(犬)を埋めて地鎮を行った建物。その廟所。王家・王室または家邦の意。「家人」という語が九三で用いられるから、九三が「家人」の主爻と考えられる。「家人」を一目見て分かることは吉が非常に多いということである。初九以外すべての爻に吉が付く。吉は単にめでたい、よいの意味ではなく、儀式用語として位置づける。一方風火家人を上下逆転させた賓卦は火澤睽となる。この火澤睽に家人の意味を裏付けする「主」「元夫」の用語が出てくる。但し火澤睽の睽は背く意味である。八卦の上下が入れ替わることで、家を守る形と乱す形に分かれることに注目したい。「利女貞」とは家事に従事し、このことを疎かにすべきではないことを説く。

 

 

 

 

【初九】閑有家 悔亡

 門を閉じて、家内を保つ。神の怒りは鎮まる。

 

「閑」は「門」+「木」。門に仕切りをすること。卦の形から把握すると、上卦巽は入口の象意。初九と巽の間に九三の仕切りが立ちふさがる。「閑」を九三と見なす。「悔」が九三に応じる。「亡」は九三の変爻を表すものであろう。初九が変爻すると風山漸となり、裏卦と賓卦が同一形となる。初九の爻辞にはこれを警戒する文言がないから、初九は陽爻を堅固に保つ。

 

 

 

 

 

【六二】无攸遂 在中饋 貞吉

 

①遂げるところなし。中廷の礼物を明らかにする。行いを慎んで吉である。

②完遂することなし。中立をもって農作に仕えること在(あき)らかにする

 出入を厳密にして貞卜し修祓せよ。神意にかなう。

➂堕とすところなし。中庸をもって農作に仕えること在(あき)らかにする。

 出入を厳密にして貞卜し修祓せよ。神意にかなう。

 

「攸」は「人」+「水」+「攴」。水は水滴の形。人の背後に水をかけ身を清めること。攸」の水の象意は裏卦坎の象意。「遂」は獣を犠牲にして軍の進退を卜し、その結果を見て行動すること。行動を継続する遂行の義。金文に「女(なんじ)敢ておとすこと毋く、乃(なんじ)の服(こと)に在れ」とある。金文では「墜」の義で用いる。「在」は才+士。領有支配を明確にする。清められた空間。位置を占める。金文に「職在王室」(職、王室に仕える)とある。書経に「璿璣玉衡(せんきぎょくこう)を在(あき)らかにす」とある。「饋」は農作の人に食を運ぶ。人に遺贈する。礼物を贈る。「中」とは六二の位置をいう。離の中爻で中庸の徳を持つから、敢えて進むことをしない。「在」はこの位置を守ることに専念すること。家人とは家を守る人という意味であり、家業に専念し生計を立てることを表す。故に身を慎んで吉となる。以下の卦を見ても敢えて進まない形が出ている。

 

六二変爻による風天小畜【九二】牽復 

   風天小畜裏卦 雷地豫【六二】介于石 不終日 貞吉

 

この爻辞は裏卦雷水解の象意に基づく。「无攸遂」の「遂」は遂げる意味と堕ちる意味の双方を含む。九二が九四を追いかけることを諦める形。表においては九三が「家人」として九五に仕え、六二は九三に阻まれ九五の恩寵を賜ることができない。「在中饋」の「在」「中饋」は裏卦九二の立場を表すと同時に、表の九三の立場をも表す。九二は中庸を保ち、「乃の服(こと)に在れ」とあるように自らの務めに専念して「吉」となる。この爻は変爻後の二爻がいずれも「吉」を保つ。但し「貞吉」は現状の立場を保つことによる「吉」と捉える。 

 

 

 

 

【九三】家人嗃嗃 悔厲吉 婦子嘻嘻 終吝

 

①家廟を守る人(主人)は繰り返し豪語する。危うきことあり、後悔すること

 あるが、最後は纏まる。婦人と子供はこぞって喜び、最後は恥をかく

②主人は繰り返し豪語する。危うき事あり後悔する。契刻した誓約の実現を

 問われる。婦人と子供は嘻嘻として声を上げる。過ちを改めること憚る。

 

「嗃」はきびしく大きな声。「嘻」は楽しんで声を発すること。卦の主爻は九三であると述べた。ではなぜ九三が「家人」の主爻となるのか。初九の爻辞にて巽を入口とし、九三を「閑」の仕切りと考えた。九三は上下卦の境界線であり、外の人に接する場所となる。国においては外交を行う場となり、その家、国を代表するものの接し方が問われる。一家の主人が厳格すぎては和気が保たれず、近所近隣との付き合いも良好に保たれない。婦人が嘻としていて気が緩み過ぎると、家事を怠るようになる。九三変爻による雷風恆の爻辞を見ても、「徳」を常にしないことで「羞」「吝」となることが分かる。

 

 九三変爻による雷風恆【九三】不恆其德 或承之羞 貞吝

 

上九が変爻した水火旣濟の九三、九五の爻辞をみると、九三の位置が「鬼方」であることが分かる。 

 

水火旣濟【九三】高宗鬼方 三年克之 小人勿用

水火旣濟【九五】東殺牛 不如西之禴祭 實受其福

 

水火旣濟の九三の「高」と「嗃」が繋がる。「高」は凱旋門であり、神の憑依するところの義がある。「宗」は霊廟、宗廟を表す文字で「家」と同系の文字。「宗」を九五の位置とすると、九三は「鄰」国との境であり、「鬼方」となる。 

 

この爻辞は「家人嗃嗃 悔厲吉」と「婦子嘻嘻 終吝」の部分に分けることができる。家人嗃嗃 悔厲吉」は変爻しない九三であり、九五と初九を繋ぎ、九五の家廟に対する臣下の務めを果たす。三爻という危うい位置にいて「嗃」と奢り高ぶる恐れはあるが、九五の地位を揺るがすには至らないから「吉」となる。この背景には秩序と礼節を表す離が下卦にあることが掲げられる。一方「婦子嘻嘻 終吝」は九三変爻を表す。六三は初九と九五双方に繋がり、嘻嘻」として従うべき相手を見失う。結果として六三は九五の家廟に対する「婦」と「子」としての役目を果たさないから「吝」となる。

 

 

 

 

【六四】富家 大吉

 

 家に富をもたらす。大いに神意に適う。

 

「富」は腹の大きい酒樽。神に多く供える。神霊に多く供薦する義。「富」を三陽(乾)の形とする。六四が変爻すると上卦に乾の富が現れる。また六二が変爻すると風天小畜となり、その九五に「有孚攣如 以其鄰」とある。ここでは下卦の乾が「富」となる。水火旣濟の九五にあるように「宗」廟は九五となるから、六四は九五の富をさらに増やす位置となる。

 

 

 

 

【九五】王假有家 勿恤吉

 

①王は立派に邦族(家族)を治める。恤(うれ)いを祓い契刻した誓約を

 実現せよ

王は叚休の命に対揚し、邦族(家族)を治める。恤(うれ)いを祓う。

 神意に適う。

 

「假」は叚声。「叚」は玉石を分かつ以前の形である。「假」は「仮」の旧字。金文に「敢て天子の丕顯なる叚休の命に對揚す」とある。「叚休」は立派でありがたいこと。また金文に「徳を爲すこと叚(かぎ)り無し」とある。ここでは立派でありがたい、限りなくの義として解釈するが、「假」を仮の意味として捉えることも想定しておく。九五は中であり君主の位置であるから「仮」の位置ではない。この場合の「仮」は九三の位置を示している。九五から見た九三は本拠地の都から離れた辺境の地であり鬼方となる。そこに仮の宗廟を建てると解釈することもできる。 

 

 

 

 

【上九】有孚威如 終吉

 

①真心があって威厳がある。終わりは吉である。

②孚心ありて、威儀を正し、神意を受けて従う。終結すれば神意に適う。 

 

「威」は「戉」+「女」。女が廟事をつとめ、聖器の鉞で清め威儀を正すこと。上九は家人の締めくくりの位置となる。威儀を正して一家を収める。

  

気学で捉えると、家の内部を切り盛りするのは巽(四緑)、外部との折衝全般を担うのは乾(六白)となる。「家人」は一家の主人のことを物語る卦であり、爻が上がるに従い「家人」としての地位が定まる様子が伺える。九五に至ると王が国家を立派に収め、あるいは都の外に仮の家(都)を建てる段階に至る。そして「勿恤吉」は九三という位置に対する「恤」であり、これを勿(はら)え」と言っている。九三という位置が易にとって非常に神聖且つ警戒すべき位置であることが分かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(浅沼気学岡山鑑定所監修)