水天需

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水天需は雨乞いの卦である。形は上卦が坎の水。下卦が乾の晴天。下界はカンカン照りでしばらく雨が降っていない状態。雨乞いは卜占の目的の一つである。「需」は「雨」と「而」から構成される。「而」は巫女の姿であり、巫女が雨乞いする形。需(ま)つと読まれることが多いが、雨乞いの形から需(もと)むと読んでもよい。坎の水は本来乾の金気と金生水で相性が良いが、坎の力が旺盛となると乾は下卦に下り九五に支配され強烈なストレスを抱える。一方、坎の力が弱くなると下卦の乾の三陽が押し寄せてきて九五に圧力をかける。

 

雨乞いは卜占の一つであるが、卜占の目的をまとめると凡そ以下のものに絞られる。易は卜辞と密接な繋がりを持つため、爻辞の解読には卜占の目的を抑えておく必要がある。

 

①祭祀(祖霊・先王、自然神、動物霊などの呪禁)

②軍事(戦争の成否、冊命など)

③狩猟、往来

④安否(病気、生死)

➄農耕(豊作祈願、雨乞い)

➅旬(定期的卜占)

 

 

この卦を気学で判断すると気象を現わす形であることが分かる。上卦の坎は一白水星であり水が蒸発して空に雲が浮かぶ形である。下卦の乾は六白金星に当たり、熱気を表す。水が高気圧の熱気で気体となり上昇した形である。上卦の水の中心を九五とし、九五の水(恩沢)が下るのを待つ。熱気は上昇するから下卦の三陽が九五を圧迫する。

 

 

 

 

【彖辞】需 有孚 光亨 貞吉 利渉大川

 

雨を需(ま)つ。誠意があれば大いに希望は通る。光明輝き会同する。

出入を厳密にして貞卜する。神意にかなう。大川を渉るがよい。

 

 

「利渉大川」の文言は爻辞に良く出る。この文言が出る時は実力以上の役を仰せつかる状況が多い。だが思い切って進むことで意外な成果があることを言う。

 

 

 

 

【初九】需于郊 利用恆 无咎

 

①郊外で需(ま)つ。恒常を保つのがよろしい。咎めはない。

②郊外で雨乞いの儀式を行う。恒常を保つがよい。咎めはない。

 

「郊」は外の邪気を祓う儀式。都の郊外を意味する。ここでは裏卦の九四が都の境界となる。「恆」は上下二線の間に月の形を加えたもの。「亘」は上下の線の間に弦月を加えた形。「亙」は垣根の形。「恆」は雷風恆で用いられる。雷風恆の「恆」は裏卦風雷益の形からもたらされ、この形に垣根の形がある。水天需の裏卦は火地晉であり、その九四が上下卦の垣根となる。う一つの「恆」の解釈は裏卦の初六が変爻して生じる初爻と上爻の垣根の形である。その賓卦において上九は九三が六五に迫る力を抑える。このことを「利用恆」と表現することもできる。雷風恆の上六に「振恆 凶」とあり、「振」の「辰」は西周時代の紀月法で翌日が朔月となる状態とされる。朔月を坤の象意とし、水天需の九五が変爻すると朔月の状態となる。坎の形はその手前の状態と見る。従って「利用恆」は坎の形を維持すべきことを説く。裏卦において初六は九四の「郊」を需(もと)め、表の形においては九五の雨が降るのを需(ま)つ。初九は乾の熱気が未だ微細であり、九五の雨を降らすには至らない。

 

 

 

 

【九二】需于沙 小有言 終吉

 

①沙に需(ま)つ。少し口論するが、終には吉である。

沙雨を需(ま)つ。小人は所有権を求めて詛盟する。

 終結すれば神意に適う。

 

「小有言」の文言は他の爻辞にも出てくる。「言」の形は兌の形であり、九二から六四に兌の形が生じる。「小」は「小臣」「小人」の意味を含み、「小臣」は王の側近の大官。「小人」は政治から疎外されていた形跡があるが、王子を擁立するほどの地位があったとみられる。「沙雨」(さう)の言葉があるように、九二は九五の雨が「少」し降る。従って九五からの食禄を十分得ることがなく「小有言」となる。「終吉」が上六に応じる。

 

 

 

 

【九三】需于泥 致寇至 

 

①泥に需(ま)つ。寇が自らに至ることを致す。

②泥み需(ま)つ。敵地に赴き虜囚を撃ち、占領した土地を明示する。

 

「泥」の「尼」は人が二人互いにもたれあう形。親眤する意味がある。九五の水に一番近く、水が地に落ちると泥になる。「需于泥 致寇至」は上下の境界線にあり不安定な位置となる。「致」は「至」+「人」。そこに人が到る義。「寇」は廟中で虜囚を打ち敵に呪祝を加えること。また寇は郊外で行う外寇を意味する。雷水解の六三に「負且乘 致寇至 貞吝」とあり、「致寇至」という同様の文言が出てくる。二つの爻辞は共通して第三爻にある。「致寇至」は九三が九五の権威に近づき、九五の位を揺さぶっている形。これが「寇」となる。この九三の「寇」は九五の君主の権威を揺さぶるものの、地位が低いために蔑ろにされるか反発を食らう。相手を攻撃すると逆にその「寇」が自分に戻ってくる。

 

 

 

 

【六四】需于血 出自穴

 

①血に需(ま)つ。穴より出る。

②血盟に需(ま)つ。穴より出る。

血盟を需(もと)む。穴より出る。

 

「血」は「恤」に通じ、憂える義。誓約の時に牲血を用いた。この爻辞の「血」は下卦三陽の犠牲の血でもあり、三陽が九五との血盟を「需」(もと)む「血」でもある。六四は九五に一番近く、下卦の三陽を脱した位置。九五との血盟に迫る位置あるいは血族の中に入る位置。裏卦火地晉の六五に「悔亡 失得勿恤 往吉无不利」とあり、「恤」に通じる。上六変爻による風天小畜の六四に「有孚 血去惕出 无咎」とある。「出自穴」の「穴」は坎の象意である。従って「穴」より「出」るとは坎の位置から出ることであるから、六四は坎の中に入っており、この解釈が通じなくなる。坎の穴から出ているのは下卦の三陽である。「出」の甲骨文は「止」(あし)の下に足跡の曲線を加えた形である。これはある一線を越えて出ていく形を意味する。この卦では六四がその一線を越える位置となる。甲骨文の形に従って捉えると、「出」とは下卦三陽の群から六四が出ることを意味する。但し三陽から「出」ると、自ずから上卦坎の穴に入ることになる。風天小畜の六四「血去惕出」の象意も同じく、裏卦の九四が下卦三陽の犠牲から出る形を表す。上六および六四の爻辞双方に「穴」とあるから、やはり上卦坎を「穴」と見ている。出」は下卦の三陽から出ることを意味しており、同時に六四は坎の中に入る。すなわち上卦に入ることは、獄訴「速」の対象から逃れていることを意味し、「穴」から出ていることになる。逆説的ではあるが、六四は「穴」に入ることにより、「穴」に陥ろうとしている三陽から「出」て、難を逃れていると見る。

 

 

 

 

【九五】需于酒食 貞吉

 

酒食を需(もと)む。身を慎しめば吉である。

 

「酒」「食」の文字は他卦にも多く出てくる。「食」は食禄の義であり、下卦の三陽が九五に対して食禄を「需」(もと)む。九五は坎の水となり下卦の三陽に恩沢を与える立場になる。但し、下卦の乾は勢いが強いため、出入りを厳密にする「貞」が用いられる。

 

 

 

 

【上六】入于穴 有不速之客三人來 敬之終吉

 

穴に入る。招かれざる客が三人来る。この人たちを慎んで迎えれば終には吉である。

 

「速」は祭事や獄訟に招くこと。急疾の義がある。「速」の獄訟に招く義は賓卦天水訟の卦象に通じる。「敬」は「苟」+「攴」。「苟」は羊頭の人の前に祝禱サイをおく形。「攴」は打ち、攻め戒める形。神事をつつしむ義。「驚」は神を驚かせること。「警」は攻め戒めること。「不速之客三人」とは上六から見た下卦の三陽。六四の爻辞で既に述べたが、獄訟に陥るものは下卦の三陽であり、六四はこの難を逃れ、九五は三陽に恩沢を与える立場になり、上六は九五の任を過ぎ、権力を無くして「三人」の「客」を「敬」して受け入れる立場になる。

 

上六変爻の風天小畜 【上九旣雨旣處 尚德載 婦貞厲 月幾望 君子往凶

風天小畜の裏卦雷地豫【上六】冥豫 成有渝 无咎

 

「旣雨」は密雨極まり雨が降った後と考えられる。「渝」は元来移し変える義。渝(か)わること。上六は実質的に役を終えており交代を控える身とみられる。「入于穴」は九五の坎の穴である。九五は実力と権限を兼ね備えており下卦の三陽を抑えることができる。一方上六は実質的地位を失っているが、九五の役に変わるものとして三陽が上六に諸事要求する。九五の任を苦渋の穴と見る。三陽は乾の剛毅さがあり上六に迫るが、上六は九五の肩書を盾にして三陽を「敬」して対応する。「終吉」が九二と応じる。「言」を唱えるのは九二であり、乾の中央に位置する九二を「敬」して対応すべきことを説く。賓卦天水訟上九の「三」と水天需上六の「三」が応じる。

 

天水訟【上九】或錫之鞶帯 終朝褫之

 

  

 

 

 

(浅沼気学岡山鑑定所監修)