山雷頤

                                ䷚  

 

 

【彖辞】頤 貞吉 觀頤自求口實

 

①養育する。身を慎めば吉である。養育に関して神意を察し、自ら口実を

 求める。 

②養育を行う。出入を厳密にして貞卜する。契刻した誓約の実現を求める。

 養育に関して神意を察し、自ら口実をつぐなう。

 

 「頤」(おとがい)は顎の義。初九と上九が顎の形に見える。「頤」の左の部首は乳房の象形。「巸」は乳房で子に授乳させる形で「巳」は赤子の形。養育の儀礼に関する字である。「觀」は鳥占により神意を察する義。農耕儀礼に関する字である。「求」は呪霊をもつ獣の皮を使って祟りを祓う形。この獣皮を用いて求めることを祈る。金文に「乃の人を求(つぐな)へ」とある。「實」は「宀」(ベン)+「貫」。廟で貝を献ずる形。豊かな供え物。鼎中にものを満たして供える意。書経に「成湯、桀を南巣(なんそう)に放つ。惟れ慙德有り。曰く、予(われ)來世、台(われ)を以て口實と爲さんことを恐ると」とある。かこつけごとの義。初九と上九は母親が赤子を抱きかかえる手と見られる。この卦は一見して吉凶が分かれる。下卦の爻辞はすべて凶が入り上卦はすべて吉が入る。下顎は凶。上顎は吉。養う立場が爻位置によって入れ替わり、吉凶が分かれる。

 

 

 

 

【初九】舍爾靈龜 觀我朶頤 凶

 

①なんじの靈龜を捨て、私を見てもの欲しそうに頤を垂らす。凶である。

②朱色に染めた靈龜を舍ふ(あたふ)。我が垂れる頤の意を察する。

 災厄を祓え。

➂なんじの靈龜に針を刺して祝禱の機能を失わせる。我が垂れる頤の意を

 察する。災厄を祓え。

 

 「舍」の「口」は祝禱のサイ。塞いでいるのは把手のある掘削刀。サイに針を刺して祝禱の機能を失わせる。祝冊の器の蓋を刺取し器中の冊書を読み命ずる意。贈与の意に用いる。金文に「矢五束を舍(あた)ふ」とある。山火賁の初九に「舍車」とあり「舍」が用いられる。針を刺して祝禱の機能を失わせる形とは山雷頤の蓋を刺す形であるから、六四または六三の変爻であろう。この離の形が上下を分断する。「爾」は死者の胸に加える朱の文身。両乳を中心として加えた文身とする。通過儀礼の際に呪禁として加えるもの。なんじと二人称に用いることがあるが、元来は文身の形。「靈」は祝祷の器サイを列して雨乞いを巫女が行うこと。初九に「龜」が出てくるのは卦の形が「龜」の甲羅に見えるからであろう。山澤損及び風雷益に「十朋之龜弗克違」と出てくるが、この二つの卦の形にも陽爻が陰爻を挟む山雷頤の形が出てくる。「我」は鋸刃の形象。一人称われとして用いる。「朶」は枝先の花が垂れて動く形。この卦は「我」の解釈によって爻全体の動きが見えてくる。「我」を初九と見ると、初九の意を察しているのはどの爻か。一つは応の関係である六四である。これが六四の「虎視眈眈 其欲逐逐」となる。ここで「觀」と「視」が応じる。「眈」の「冘」(いん)は境界を出る人の歩く形象。すなわち六四は上卦に入るが、境界を越えて下卦の初九に応じようとする。尚、六四は上九の養いを得ており、応の初九に応じることを「朶頤」の形とする。もう一つは六五である。六五は君主の位置であるから初九と結びつく形は常道に反する。これを「拂經」形とする。六五の「不可渉大川」は六四の境界線を越えて初九に結び付く(渡る)べきではないということである。

 

 

 

 

【六二】顚頤 拂經 于丘頤 征凶

 

①養育を覆す。筋道に背く。丘において養われる。異方に向かって進めば

 災いある。

②養育権をさかしまにする。経糸をはらう。丘において養われる。異方に

 向かって進めば災厄ある。

 

六二の「顚頤」はさかしまに頤(やしな)わる、または頤をさかしまにすると読む。養育を覆す意味となる。「顚」の声符は眞。「眞」は顚死者の霊威、呪霊を恐れ慎むこと。後、不変のもの、まことの義となる。「顚」は倒れる。さかさまの義。養育がさかさまになるという意味である。一つの解釈は父親が母親の代わりに幼子を養うことであろう。あるいは主たる生計者が入れ替わる状況とみる。さらには養育権を覆す意味も加わろう。「顚」は六四でも用いられるから、六四の「顚」と同じ爻を示すものと考える。また「顚」は裏卦澤風大過上六の「頂」に応じるから「顚」は上九と見なす。「拂」の「弗」は曲直のあるものを強く束ねる形。「弗」は佛(払)の初文。はらう。もとる。枝を曲げて強く束ねるので「払戻」(ふつれい・はらいもどす)の意がある。「經」は縦糸。織機の縦糸を張りかけた形。垂直で上下の緊張を保つ。縦糸は初九と上九を繋ぐ形。「拂」はこれを強く束ねる。すなわち初九と上九は強く束ねられている。六二は上九と経糸で繋がる位置ではなく、またその力もない。「丘」は墳丘の象。六三変爻による山火賁の六五に「賁于丘園」とあり、「丘」が応じる。

 

山雷頤の裏卦は澤風大過。「顚頤」を爻の関係から捉えるには、裏卦澤風大過の九二および九五の爻辞を参考にすればよい。ここでの「老夫」「女妻」の関係、「老婦」「士夫」の関係を把握すると、六二と結びつこうとする爻が分かる。この分析は澤風大過にて詳細に述べる。澤風大過は裏卦山雷頤の陽爻と陰爻の動きを見て爻辞を作っていると考えられる。まず上九の「老夫」が六二の「女妻」と結びつこうとする。すなわち六二が上九に結びつき養われる形を「顚頤」、さかしまに養われる形と見る。六二は本来六五に応じるべき位置にあるが、双方陰爻で引き合う力がなく、六二はこれを越えて上九と結びつこうとする。これを「拂經」、初九と上九の経糸をはらう、常道に反する形とする。「拂經」は六五の爻辞にも用いられているから、互いが常道に反する動きを持つことが分かる。「于丘頤」の「丘」は墳墓の意であり、墳墓は陰爻の象意でもある。この卦では上九と初九の間にはさまる陰爻の塊が墳墓となり、この中で六二が養われる。「征凶」は六二が上九に養いを求めて動くこと、また同時に六三と六四が陽爻と結びつく動きを警戒する辞である。

 

 

六三変爻による山火賁 【六五】賁于園 束帛戔戔 吝終吉

 山火賁の裏卦澤水困 【九二】困于酒食 朱紱方來 利用享祀 征凶 无咎

六四変爻による火雷噬嗑【六二】噬膚滅鼻 无咎

六四変爻による水風井 【九二】井谷射鮒 甕敝漏

 

 

 

 

 

【六三】拂頤 貞凶 十年勿用 无攸利

 

①養いにもとる。身を慎んでいても凶である。十年用いてはならない。

 利益はない。

②養いをはらう。出入を厳密にし、災厄を祓え。十年用いることを禁ずる。

 利するところなし。

 

六三は上九に応じる関係となるが、初九と上九の経糸を阻害する動きを見せるから凶となる。「貞凶」は出入りを厳密にし、身を慎んでいても凶。またはあまり出入りを慎みすぎると凶という、二つの意味に受け取れる。六三は初九と結びつく力が強く、変爻すると六二及び六五が陽爻と結びつこうとする動きをけん制する。この動きが六二、六三、六五の「拂」に現れる。「十年勿用」は坤の状態が十年続くから、活躍を期待できないことを言う。易及び気学では坤を十年と見る。

 

 

 

 

【六四】顚頤吉 虎視眈眈 其欲逐逐 无咎

 

①養育を覆す。吉である。虎が境界を越え徐々に近づく。欲に駆られ

 どこまでも追いかける。咎めはない。

②養育を覆す。契刻した誓約の実現を求める。虎が境界を出よう出ようとして

 見る。それ神容の現われを追いかけよう追いかけようとする。

 神罰なからん。

 

「虎」及び「虎」を含む文字は易の爻辞に度々出てくる。「虎」は獲物を狙い、時に恫喝する獣であるから、その象意が易のどこかに現れる時「虎」の文字が現れる。ここでは震の初九を虎と見る。初九が六四との結びつきを得ようとし、六三の境界を越えて近づこうとする。これに反応する六四を「虎視眈眈 其欲逐逐」とする。「顚頤」は上九に養われることを表し、この形を吉とする。

 

 

 

 

【六五】拂經 居貞吉 不可渉大川

 

①養いにもとる。この場所にいて身を慎んでいれば吉である。

 大川を渡るようなことはしてはならない。

②養いをはらう。久しくその祈りを保ち、貞卜によって出入を厳密にすれば

 神意にかなう。大川を渉る許可は得られない。

 

六五の「拂經」が六二の「拂經」に応じる。六二と六五は陰爻同士で繋がりが弱い。六五は初九と応の関係にはならず、上九の養いを得る位置でもないため、今の立場をそのまま温存することが吉となる。この状況で環境を大きく変えることは出来ない。

 

裏卦澤風大過【九五】枯楊生華 老婦得其士夫 无咎无譽

 

「老婦」は山雷頤の六五。「士夫」は初九。六五が初九を得る。この形は咎めはないが誉もない。六五が本来の応ではない初九から養いを得ることは不可能ではないが道義にもとる。それ故に「无咎无譽」となる。この立場を初九から見ると、初九の爻辞に「舍爾靈龜 觀我朶頤 凶」とあるから、上位の陰爻が初九と結びつく動きは、「靈龜」の祝禱による機能を失わせ、また養いを求めて頤を朶らすことになるから凶となる。

 

 

 

 

【上九】由頤 厲吉 利渉大川

 

①由らしめて養う。危険であるが吉である。大川を渡ってもよろしい。

②由縁あって養う。邪気を祓い、契刻した誓約を実現せよ。卜占を行って

 修祓し、大川を渡るによろし。

 

「由」は実が油化した状態。由縁。由来。由らしむ儀。上九は下位の養いの元であるから、これを招き入れる。これを由らしむ。「厲吉」は上九が動いて養うのではなく、六二と六三の求めに応じて「由」らしむ形を吉とする。「利渉大川」は上下卦の国境を越えて渡ることであるが、上九は艮であり、養いの元であるから動かず、上九の養いを求めて「大川」を渡るものを受け入れよとのことであろう。 

 

 

 

 

 

(浅沼気学岡山鑑定所監修)