山地剥
䷖
【彖辞】剥 不利有攸往
剝がされる。行くところあるによろしからず。
「剥」は「彔」(ロク)と「刀」で構成される。「彔」は錐状の器で木を切り刻み木屑が散る形。金文に「通彔永命」など、彔を禄(ろく)の意に用いる。西周の金文に「女(なんじ)其れ成周の師氏を以ゐて、古𠂤(こし)に戍(まも)れと。白雝父(はくようほ)、彔(ろく)の歴(いさおし)を蔑(あら)はし、貝十朋を賜ふ」とある。爻辞に用いる文字が当時の金文の中で繋がりをもって現れる。
易には六十四の卦があり様々な形があるが、山地剥は一見して不安定な形であることが分かる。易とは波動が形に現れたものであるから、陰陽の均整がとれているものがよい。山地剥は「牀」寝台の形であるが、足が長すぎバランスが悪い。その足元から六四に上がるに従って凶意が増す。この卦は陽爻が陰爻の力によって剥がされ、上九が最後の一陽となって残る形と見ることができる。
【初六】剥牀以足 蔑貞 凶
①寝台を剥ぎ取ること足に及ぶ。貞卜を蔑ろにすれば災いがある。
②夢魔にうなされ寝台を剥ぎ取ること足に及ぶ。敵陣に呪儀を行い、
出入を厳密にして修祓せよ。霊を鎮め、災厄を祓え。
➂王の椅子(地位)を剥奪せんとして足元に及ぶ。敵方に向け呪儀を行い、
出入を厳密にして修祓せよ。死者の霊を鎮め、災厄を祓え。
「牀」の声符は「爿」。寝台。祖霊を祭る廟室にかたしろとして屍を置く台。「爿」には疾病や夢に関する意味があると白川氏は記述する。「蔑」は目に呪飾を加えた形と「伐」。目に呪飾を加えた巫女が、敵陣に呪儀を行う。媚女を職業的な祖神として祀っていた。これを「蔑宗」(べつそう)という。敵方に向け呪祝する。軍功を表彰することを蔑歴という。賓卦の地雷復六二に「休復 吉」とあり、「休」の軍功表彰の義に通じる。初六の位置は寝台の足の位置となる。
【六二】剥牀以辨 蔑貞 凶
①寝台を剥ぎ取ること足の付け根に及ぶ。貞卜を蔑ろにすれば災いがある。
②椅子(地位)を剥奪せんとして裁判に及ぶ。敵方に向けて呪禁し、
出入を厳密にして卜する。死者の霊を鎮め、災厄を祓え。
「辨」は当事者二人が並んで盟誓し裁判を行うこと。寝台の足と胴体の付け根と解することがあるが、「辨」の形に元来そのような意味はない。
六二変爻による山水蒙【初六】發蒙 利用刑人 用説桎梏 以往吝
山水蒙【九二】包蒙 吉 納婦 吉 子克家
山水蒙の初六に「刑人」の文言があり、九二のことを示していると考えられる。この卦は下位の初六と六二に「凶」が付く。易は坤を邪霊が憑く形と考えている節がある。上卦の艮は机や橋のように足を持ち、積み上げた形になる。この形は転倒しやすく、特に下の部分は地面に接し荷重がかかるために不安定となる。さらには剥がれはじめの位置であるから状態の悪化を警告する。
【六三】剥之 无咎
これを剥がす。咎めはない。
六三が変爻すると艮爲山となり、その裏卦兌爲澤の九五に「剥」が現れる。六三は上下卦の境界で本来は凶意を最も強くするはずであるが、六三変爻の艮の形は剥がれを止め、また机の脚をむしろ強くするから、咎めなしとなる。
兌爲澤【九五】孚于剥 有厲
裏卦澤天夬【九三】壯于頄 有凶 君子夬夬 獨行遇雨 若濡有慍 无咎
【六四】剥牀以膚 凶
寝台を剥ぎ取ること膚に及ぶ。死者の霊を鎮め、災厄を祓え。
「膚」が上九の「廬」(りょ)に応じる。「廬」は旅宿りの儀礼。地霊を祭る。一般から隔離された忌殿としての屋舎。上卦に至り剥がれるものが身体に及ぶ。症状の悪化と見る。
【六五】貫魚 以宮人寵 无不利
①魚を貫く。宮人として寵遇される。よろしからざるなし。
②魚を櫛差しするが如く、客室に連なる。大いに利権を失う。
「貫」は「貝」+「毋」。貝を綴って貫く銭差し。「宮」は廟奥。客殿。「呂」は客室が並ぶ形。「寵」は神聖な居。いつくしむ。めぐむ義。「牀」を病床の寝台と考えると「宮」は病院となる。この場合の「宮人」は病人あるいは医者、看護師とみてもよいだろう。宮人としての処遇を受ける。貝を綴ったように部屋に横たわる。六五に至り、剥がれが止まり、それなりの待遇を受ける。卦の形は魚の背骨の形に見えるから、背骨の一部、椎間などが剥がれる病とみる。
【上九】碩果不食 君子得輿 小人剥廬
①一番上の果実は食されない。君子は輿を得るが、小人は仮宿を剥奪される。
②碩人は果断し、食を止める。君子は輿を得るが、小人は仮宿を剥奪される。
「碩」は聖所を拝する人の形。神事にあずかる人。碩人。大徳の人。上九は「碩果不食」とあるように、手の届かない位置にあり、食事に不便を強いられる。君子は輿に乗せられ、あるいは担がれ助けを得るが、小人は「廬」(仮宿)を追い出される。「廬」は病院と見ることもできる。「碩」「輿」「廬」は上九の位置を示し、卦の形を表す。
(浅沼気学岡山鑑定所監修)