天火同人

                               

 

 

 

【彖辞】同人于野 亨 利渉大川 利君子貞

 

野外にて会同する。希望は通る。大川を渉ってよろしい。君子は身を慎むのがよい。

 

「同」は「凡」+「口」より構成される。「凡」は酒盃に用いた器。「口」は祝祷を収める器のサイ。地霊に酒を灌ぐ儀礼。「興」は土地の霊を呼び起こすこと。「興」は九三の爻辞で用いられる。会同の時、酒を飲み神に祈り誓った。会同盟誓などのときに用いるものであるから「あつまる」意となる。同族であることを確認する儀式。書経に「太保同を受け、降つて、盥ひ、異同を以て、璋を秉(え)にし以て酢(さく)し、宗人に同(酒を飲む礼器)を授け、拜す」とある。「野」の声符は「予」。卜文に「埜」の字があり、金文では土地名としての用例がある。「里」は田社。「亨」は烹飪する器の形。神人を祀る祭饗の意。礼記に「五官貢を致すを享と曰ふ」とある。

 

天火同人は会同を表す。対外的に非常に重要な案件で会同するのであろう。巧みな交渉術が要求される場面でもある。「同」は会同の義。状況から推察すると、異国との政治的交渉に臨む場面とも考えられる。「宗」は宗廟。祖霊。 会同の形はどこから来ているのだろうか。私はこの形は表よりも裏の形にあると考える。裏卦地水師は九二の師と六五の君主が会同する形である。これは天火同人においては六二と九五との会同となる。その理由の一つは初九の「門」である。門は裏卦の九二と考える。初六は九二の門壁の前に立つ形である。もう一つは「野」の象意である。「野」は乾よりも坤の象意に近い。坤爲地の上六に「龍戰于野 其血玄黄」とある。ここに「野」が用いられる。ここからも「野」は裏卦の象意にあると考えられる。

 

 

 

 

【初九】同人于門 无咎

 

門において会同する。神罰なからん。

 

古代では外部と居所との接点、境界である門を重視した。周礼に「凡そ邦國に疑有るときは會同す」とある。従ってこの卦は何か先方に疑が有る時の会同と考える。「門」を裏卦の九二とし、初六は門前に立つ。初九は剛気を押し出すのではなく、下卦離の見識をもって礼節を尊ぶ。故に咎めはない。

 

 

 

 

【六二】同人于宗 吝

 

宗廟において会同する。禍あり。

 

「宗」は宗廟。御霊。祖霊。家筋の人。「宗周」は周の正式な王都。九五を王都とすると、六二は臣下の位置となる。あるいは六二を宗廟とすると、九五の方が位が高く権力があるため、六二の立場は謙譲をもって接する立場となる。「吝」は死者について祈る凶事の礼。ものおしみする。易で用いられる「吝」には恥の意味がある。

 

 

 

 

【九三】伏戎于莽 升其高陵 三歳不興

 

草むらに伏兵を置き、高陵に上る。三年を経ても会同し盟誓することが出来ない。

 

「伏」は武人と犬を埋めて祓う儀式。「戎」は兵器。軍事。「莽」は墓場。草むら。裏卦地水師の上卦坤を墓場と見る。「升」は勺形の器。穀量を量る器。供薦の義。裏卦地水師の六三が変爻すると地風升となる。従って九三は裏卦の六三変爻を想定する。「高」は「京」の省文。京は戦場の遺棄屍体を塗りこんで作った凱旋門。神の憑依するところ。「高」は凱旋門であるから国境を意味する九三で用いられる。「陵」は神梯子の前の聖屋に足をかけて神聖を犯し凌ぐ形。これは裏卦の六三が変爻し六五の地位を凌ぐ形が現れることを示すものである。「歳」は犠牲を割く鉞。肉を切って祀ること。古くは祭名に用いた。歳祭は年に一度の大祭であったとみられ、ここから一年の意味が加わったと考えられる。「三歳」は他の爻辞にも出てくる。これを三年と訳すのが通例であるが、「歳」には犠牲の意味があることも念頭に入れておきたい。「興」は地に酒を注いで地霊を慰撫する儀式であり「同」の文字を含む。裏卦六三の変爻により生じる地風升の九三に「升虚邑」とある。ここで「升其高陵」と繋がる。九三の爻辞は明らかに裏卦の象意と変爻の動きを捉えている。

 

 「三歳不興」という表現はどの形からもたらされたものだろうか。まず表の形を見ると上卦乾の「三」陽があるから、これを「三歳」と見ることができる。「歳」には犠牲の意味があるから三陽を犠牲の羊と見なす。「不興」は裏卦の象意と見る。裏卦の上卦坤は未開の地を意味するから、坤の未開地の地霊を慰撫する儀式を行う。また「興」は「同」の義を含むから、裏卦の九二と六五の会同を示唆するが、九二と会同すべき存在が坤の未開地にはいない。これを「不興」(会同しない)の形と見る。従ってこの形は交渉相手がいないこと、行動を起こせない状況を表す。             

       

 

 

                                              

【九四】乘其墉 弗克攻 吉 

 

①城の垣に上り物見する。よく攻撃を祓いよける。吉である。

②敵方の城郭の様子を物見する。敵を祓いよけ、克く攻める。

 契刻した誓約の実現を求める。

 

「乘」は「禾」(いね)の上に人が二人上っている形。一人が木に登って遠くを望むこと。他の勢いを借りて行動することを意味する。「望乘」という族名があり、斥侯(せっこう)を職とする者の氏姓であった。王が軍事で出行するとき「望乘」を従えることを卜したという。「乘」は九四変爻による風火家人の裏卦雷水解【六三】でも用いられる。「負且 致寇至 貞吝」。「墉」は城の垣。城の垣は九三であろう。九四は九三の上に乗る。「弗」は曲直のあるものを強く束ねた形。詩経に「以て子無きを弗(はら)う」とあり、祓去の意味として用いられる。祓う、清める義。「弗」は現代では否定詞として用いられるが、元来は祓う意味である。「克」は木を彫る刻鑿の形。克己。よくする。かちとる。「克」は賓卦火天大有【九三】でも用いられる。「公用亨于天子 小人弗」。「攻」は呪具を用いて打つこと。金文では軍事を「戎攻」と記す。九三の「戎」に応じる。「弗克攻」とは裏卦地水師の九二が進攻しないことを表す文言であろう。表は上卦乾の堅固な「墉」がある。

 

 

 

 

【九五】同人 先號咷而後笑 大師克相遇

 

①会同する。先には泣き叫び後には笑う。偉大な軍師は克己し相い遇う。

②会同する。使者を派遣し願いの成就を求めて叫び、後に安堵する。偉大な

 軍師は克己し相手の出方を見て遇う。

 

「先」は除道のために人を派遣すること。「號」は祝禱の器サイに向けて願いが成就するよう哀訴すること。「咷」は亀卜の焼けた割れ目の形。占うこと。「後」は敵の後退を祈る呪儀。「笑」は巫女が手をあげ、首を傾けて舞う形。神意を和らげる義。「遇」は神異のものに遇う。礼記に「諸侯未だ期に及ばず相見ゆるを遇と曰ひ」とある。

 

九五という位置は位が高く中位であるため最も安定した位置となる。ところが「先號咷而後笑」の表現は決して安泰とは言えない。この理由は裏卦の状態にある。裏卦は地水師である。「大師」は裏卦地水師の状況を表す文言である。

 

地水師【六五】田有禽 利執言 无咎 長子帥師 弟子輿尸 貞凶

 

狩猟して有害な獲物を捕まえる。進言を取り上げるのがよろしい。咎めはない。長子は師団を率先し子弟は屍を車に乗せる。出入を厳密にして身を清める。災厄を祓え。

 

「弟子輿尸」という文言を見ると、子弟が戦に大敗する状況が伺える。従って天火同人の九五は一歩間違うと戦に大敗すること、あるいは交渉が破綻することを表す。「先號咷」の「號咷」という表現は火山旅の上九に出てくる。

 

火山旅【上九】鳥焚其巣 旅人先笑 後號咷 喪牛于易 凶

 

この「號咷」はいったい何を現わしているのか。その答えは卦の形に現れている。「咷」の「兆」は亀卜の灼けた割れ目の形。左右対称に焼く形。卜によってことを予兆する義。これは亀卜の形である。つまり卦の形が亀卜の形と同形であることを示している。その原型は火山旅でもなく天火同人でもない。亀卜の形は雷山小過あるいは離爲火に現れる。亀卜の形を見たことがある方はおそらく気づくはずである。雷山小過の形は丁度亀の甲羅のように左右対称の形となる。また離爲火も同様に左右対称の形である。つまり双方の卦は変爻によって亀卜の形となる。火山旅は上九が変爻して雷山小過となり、天火同人は九五が変爻して離爲火となる。この形を「號咷」と表現したものと考える。離爲火六五の爻辞を見ると二つの卦の繋がりを見ることができる。

 

離爲火【六五】出涕沱若 戚嗟若 吉

 

若」は巫女が両手を上げて舞い神託を受けようとしている状態を表す。若」は「笑」の義に近い文字である。「嗟」は嘆きを表す文字であるが、「戚」は武舞や儀器として用い、恐れる義の他親しむ義もある。「先」は裏卦の九二が戦闘意欲を示す形であり、「後」は本来は後退を祈る義であるから、九二の軍師との会同により、軍が後退することを表明したものと考える。戚嗟」には嘆きの中にも威厳を保つ姿が映る。

 

九五は中位で本来は安定の位置にある。正々堂々と交渉に臨めば同意できる点も出てくる。これを「後笑」「大師克相遇」と表現したのであろう。離爲火の裏卦は艱難の連続を意味する坎爲水である。つまり出方次第で直ぐに決裂してしまう相当に厳しい会同である。

 

 

 

 

【上九】同人于郊 无悔

 

郊外で会同する。悔いはない。

 

 「郊」は他邑と接する境界。外の邪気を祓う侯禳の儀礼を行った。上九及び九三を都の郊外とする。上九も裏卦の象意が強い。

 

裏卦地水師【上六】大君有命 開國承家 小人勿用

 

 

 

 

(浅沼気学岡山鑑定所監修)