カサブランカ考

何度見ても飽きない映画には何かあるのだろう。何度聞いても同じように心動かされる曲もある。こうした名画、名曲はどのようにして生まれているのだろう。そこには必ず答えがあるはず。それは法則と言ってもよいだろう。その法則を知ることは、おそらく人生のしくみやその目的の根本的な理解に繋がるのではないだろうか。

 

as time goes by』(時の過ぎゆくままに)。映画『カサブランカ』のテーマ曲として使われた名曲である。映画の中でこの曲を歌うのがドーリー・ウィルソン。この映画の主人公三人の生まれを調べると以下のようになる。

 

ハンフリー・ボガート    本命(亥・二黒土星)月命(子・一白水星)

イングリッド・バーグマン  本命(卯・四緑木星)月命(申・二黒土星)

ドーリー・ウィルソン    本命(戌・六白金星)月命(卯・四緑木星)

 

三人の相性を九星で観てみよう。ボガートの本命二黒土星から見たバーグマンの四緑木星は、いつもそばにいて話を聞いてくれる一番身近な人。一方バーグマンの四緑木星から見たボガートの二黒土星はいつも自分を引っ張っていってくれる存在。但し時に試練を与えられ見放されることもある。恋人として理想的な存在に見えながら土壇場で崩れ去る二人の関係がここに現れる。ボガートの月命一白水星から見たウィルソンの月命四緑木星は、いろいろな場面でサポートしてくれる家族的な関係。この場合、本命はプライベートの波長、また月命は仕事で共演する時の波長と見る。

 

十二支の相性は本命で観るとボガートの亥とバーグマンの卯、月命で観ると子と申が三合の関係となる。ボガートの本命亥とウィルソンの月命卯も三合。三合とは十二支の中で最も波長が合う関係で、他の相性にはない強い結束感が生まれる。ボガートとバーグマンは本命月命ともに三合と言う非常にまれな関係。ボガートとバーグマンの十二支はこれ以上ないくらいピッタリ合う。この映画がなぜここまで多くの人を引き付けるのか。その理由は二人の相性のよさにあったと言ってよい。

 

気学で観る人の相性は、演技ではなく人のありのままの心(気)を映し出している。映画の中のリックはイルザを心から愛し、別離によって憎み、再び結びついて愛情を思い出に変えた。リックに付き添う歌手のサムは、まさに映画の中でもリックの家族的な存在で、常にリックの側にいて手助けし導いていた。リックと夫ラズロとの間で揺れ動くイルザの姿は、忠誠心は強いが時に風のように気持ちが揺らいでしまう四緑木星の性格そのもの。こうした人の人物像はシナリオで仕組まれて生まれたものであろうか。たまたま人の波長が合ったから上手く出来上がったのだろうか。実はそうではない。相性通りの役が回ってくるには理由がある。

 

気学ではこのように考える。波長がぴったり合っているからこそ、人は同じ映画に集まり、ぴったりのストーリーに仕上がっていったと。こうしたことはすべて必然的に起きる。だからこそ名画は生まれる。そうであるからこそ、この映画は何度見ても登場人物が今でも生きているかのように我々に語りかけてくる。名画と言われるものも、名曲と言われるものも、すべてこうした必然が重なってできる。波長が合うもの同士が出会うと、気の世界は絶妙なハーモニーを響かせる。

 

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この映画のテーマソング『as time goes by』にも偶然ではない必然が隠されている。リックの酒場でイルザとサムが再会するシーン。イルザは“as time goes by”を聞かせてと言う。サムはごまかしてどんな曲か思い出せないという。そこでイルザは“I'll hum it for you”と歌い始める。その声のキーはF♯。この時イルザはなぜF♯で歌い始めたのだろうか。思いがけず再会を果たした夜、リックは店に残りイルザが戻ってくるのを待つ。リックがサムにas time goes by”を俺にも聞かせてくれと言う。そして二人がパリで過ごした日々をリックは回想する。この時流れる“as time goes by”はGで始まる。他にもこの曲が流れるシーンがあるが、シーンによって異なるキーが使われる。これには理由がある。

 

ところで十二音は十二支に置き換えることが出来る。そして十二音の周波数比が長3度または完全5度に近い周波数比で繋がる組み合わせが三合となる。三合は十二支の相性の中で最も強く結びつく。従って亥卯、申子に当たる十二音も三合の波動で繋がることができる。この理論を元に『カサブランカ』の隠れた謎を解いてみよう。

  

イルザが歌い始めたキーのF♯は十二支子の周波数域となる。子はボガートの月命に当たる。月命は特に精神的繋がりが現れる波動である。イルザ(バーグマン)の月命の十二支は申であるから申(D)の三合に当たる子(F♯)キーを使って歌うのは自然の流れ。そして申の三合に当たる子(F♯)はボガートの月命に当たるキー。まさにイルザのリックに対する思いの表れである。子は孤独、思い出、自己愛の波長を現わす。サムはイルザの鼻歌のキーに併せて歌い始める。彼の歌うキーはFFはサム(ウィルソン)の月命卯(A)の三合に当たるキーでもありボガートの本命亥のキーである。亥(F)は子(F♯)とは異なり表では冷たい態度を取るが、心の中では目にかけた人をとことん応援する気質を持つ。

 

ボガートの月命の波長Dの三合音であるF♯をイルザが発し、サムがキーをFに変えてこれを引継ぐ。そしてボガートの本命亥のキーであるFが酒場に響くことによって、リックは店の奥から現れイルザと再会する。テーマソングに使われるキーはそれぞれのシーンでの登場人物の心の動き、波長を見事にとらえている。

 

一方リックがイルザとの思い出を回想するシーンではGの“as time goes by”が流れる。Gは十二支丑の周波数に当たる。Gすなわち丑の波長は新しい自分に切り替わるための準備を始める波長である。罪、トラウマ、不安を解消し、自立しようとするが、未だ自分に閉じこもってなかなか抜けられない心の状況を表す。時に自立が上手くいかない時は苛立ち、ごね、いつまでも同じことにこだわり続ける。だからこそGはリックがイルザとの思い出を回想し運命を嘆くシーンにピッタリのキーなのである。リックは一方的に別れを告げたイルザの手紙によって忘れることのできないトラウマを抱え、イルザはリックを見捨てた罪の意識が今でも残っている。だからこそこのシーンではGが生きてくる。

 

ドーリー・ウィルソン(サム)は卯の波長を持っているから、卯と三合である亥すなわちFが最も歌いやすい。そしてF(亥)はバーグマン(イルザ)の本命である卯(A)の波長に通じ、三合の綺麗なハーモニーが生まれる。こうして音楽が登場人物の心の波長に重なり、その場の雰囲気を作り上げていく。F、F♯、G音はこの映画の隠れた重要なモチーフとなっている。

 

当たり前のことであるが、ストーリーには登場人物の心の動きが現れる。心の動きとは登場人物の波動であり波長である。我々が映画の中で感じ取っている雰囲気とは、まさに登場人物の“気”の動きである。この時十二支の波動からもたらされる影響は大きい。音楽が波動の芸術であれば、映画も波動の芸術である。名画と言われるものは人工的に作られていくものではない。名画は名画となり得るための必然的な条件が整う場である。登場人物が必然的に集まり、登場人物の波長に合ったストーリーに必然的に仕上がっていく場なのである。

 

 

 

(浅沼気学岡山鑑定所監修)